ゴスペルのイブ【前編】|株式会社渋谷不動産エージェント

ゴスペルのイブ【前編】2021-12-20




ロザリーは悲しんだ、オスカルは激怒した。
我輩は猫の渋谷ハチ公である。
いつものように妻の渋谷パルコを昼寝をしているところへ
甥の渋谷スクランブルが一冊の本を携えてやってきた。
英語で書かれたその小説は心あたたまる昔の話であった。

1930年9月世界恐慌の真っただ中、ある男が自殺を遂げた。
彼は工場長であった。
従業員の出勤制限に始まり、
残業中止・賞与停止・新規学卒の内定取消・非社員のレイオフ、
給与カット、リストラの実施に加えて経営の資金繰りが厳しい中、
会社のオーナーが資金を持ち逃げしたことにより、
従業員に賃金の支払いができなくなった給料日の出来事であった。

工場が倒産し、失業した青年チャールズは毎日職安に通い続けたが、
町に失業者があふれ、1件の募集に数十名が群がる状況で
仕事は全く見つからなかった。

実際、失業率は27%に及び政府は打開策が見つけられず困窮していた。

職安に通う10日目にチャールズは、
やつれてうなだれた知人を一生懸命に励ます、
一人の女性を見つけた。

細く華奢な体に白い肌、青い瞳に高い鼻の美人でとても美しい髪を長く伸ばしていた。
まるでほほえむ天使に後光が差すような錯覚に陥り、しばらく立ち尽くすチャールズであった。


チャールズは半年前に解雇された黒人の親友トビーの家を訪れたが不在だったため、
教会の隣にある黒人専用の公園に足を踏み入れた。

教会からゴスペルの歌声が遠くかすかに聞こえていた。
いつものようにギターをかかえて子供達に近づくと
子供達は白人の女性を取り囲むように円陣を組んでおり、
円の中心の女性が一片のパンを細かくちぎっては、
黒人の子供達に分け与えていた。

チャールズはその女性の後姿を見た瞬間、というより、
美しい髪を見た時に「彼女だ」と確信した。

子供達の数名がチャールズに気が付き、
円陣の中から3人の子供がチャールズに駆け寄り
円陣に引き込んだ。

親友トビーの息子、マイケルは彼女に向って
「チャールズはいつもギターを僕たちの為に弾いてくれる、
とても優しい男なんだ」と紹介してくれた。

チャールズは緊張のあまり「はじめまして」と言えず
「こんばんわ」と挨拶してしまい、
太陽の下で子供達の笑い声が響き渡った。

途方にくれて彼女を見つめるが、
優しく微笑むその顔にテレ笑いを返すのがやっとであった。

マイケルから彼女の名前がメアリーである事と、
彼女が毎週金曜日に公園にやって来ては
子供達に算数と文字を教えていること、
子供達にお菓子を分け与えてくれること、
最近お菓子が手に入らなくなった為、
今日はパンを分けてくれたことを聞き及んだ。

子供達とギターを弾きながら歌を唄うのはとても楽しく、
メアリーが傍らで聴いてくれることが
チャールズにとっては何よりの張り合いとなった。

そしてチャールズは毎週金曜日に公園に足を運ぶようになり、
少しづつメアリーと懇親を深めていった。

そしてある日決心の末に彼女に思いを打ち明け、
「クリスマスイブの夜を僕に下さい」と頼んだ。

驚いたようにメアリーは戸惑いうつむいた、
「やっぱり僕ではダメなんだ」とチャールズは心の中で叫び、
諦めかけた時、メアリーの小さな唇が
「私でよければ、ご一緒に」と動いた。
その瞬間チャールズは舞い上がる勢いでメアリーをハグし、
彼女の髪に触れた時、最高の幸福を感じた。
そして同時になんて素敵な髪だろうと感じたのだ。

12月24日の夜、一張羅のスーツを着込んだチャールズは
愛しきメアリーに寄り添いながら、腕を組んでゆっくり歩き、
レストランへ向かう。

レストランの予約席で外套を脱ぎ、シャンパンで乾杯する時点で
チャールズの違和感は最高点に達した。

そして静かに問い質した。
「メアリー、ひょっとして君は頭にケガをしたのかい?
それとも寒さでスカーフを外せないのかい?」

困った顔のメアリーは「ごめんなさい。失礼をお詫びします。」と言いながら
そっと頭を覆い隠していたスカーフをはずすと、
驚いた顔のチャールズに向って説明を始めるのでした。

「貴方に贈り物を買う為に髪を売りました。
それで貴方が立ちあがったままギターが演奏できる様に
ストラップと新しい弦を買ったの、使ってちょうだい」
そう言って赤いリボンが付いた紙袋を差し出しました。

中からは上等な革のストラップと高級なギターの弦が出てきました。

「ありがとうメアリー、でも君に謝らなければならない、ごめん」
「どういう事、チャールズ」
「君に贈り物を買うためにギターを売ってしまったんだ。」
「ああチャールズ、貴方私のためになんて事を…
お爺様より引き継いだ大切なギターだったのに」
メアリーは言葉を失った。

「受け取ってくれメアリー」
プレゼントを受け取ったメアリーが包みをほどくと
中から櫛が出てきました。

櫛を見つめるメアリーに対してチャールズは
「僕の為に髪を伸ばしてくれるよね?」と優しく問いかけた。
するとメアリーはじっとチャールズを見つめ、
青い瞳から大粒の涙をこぼしながら、
かすれるような声で一言、
「ごめんなさい」と告げ、その場を走り去った。

チャールズは驚きながら彼女を追いかけた。
その時、彼女の服から何かが落ちた為
追いかけるのをやめて、彼女の落とし物を探した。

早く追いかけたいと焦る中、やっとの思いで落とし物を拾い上げ
彼女を追いかけようとしたが、既に姿はなく、
大声でメアリーの名を叫んでも応える声はなかった。

走り続けたチャールズは教会から聞こえるゴスペルの歌声に足を止めて
ふと、彼女の落とし物を見つめると、
それは彼女が使っていたヘアピンであった。

夜空を見上げると白い雪が降り始めていた。


12月24日へと続く


 

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ページ作成日 2021-12-20

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